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3学期 byベルン

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ベルン
 あれは確か、二〇世紀だったと思う。
 私は生まれた。
 この世界に、この地球に、
そして、この日本という国に生まれた。

四歳の頃だった。
初めて他の人と触れた。
その人の名前は覚えていないが、初めての感覚だった。
季節が冬だったせいか、とても冷たくて、乾いていて、
そして温かかった。

七歳の事だった。
初めて他の人を嫌いになった。
何故だったかは覚えていない。
でも嫌悪感は確かに私の心にあった。
でも、私だってやっぱり一人の人間だったわけで、
時が経てば、次第にその嫌悪感も薄れていった。

一二歳の時だった。
 初めてうれし泣きをした。
 私は涙は負の感情を示すものだと思っていたけれども、
 実はそれは全くの誤解だった、
 そう理解することができた。
 このときには、もうあの子は私のそばにいたっけ。
 
 一六歳の時だった。
 初めて人を好きになった。
 これまで経験した中で、一番強い感情だった。
 その感情は言葉ではこれ以上言い表せない、
 少なくとも私の知っている言葉では。

 三〇歳ぐらいだっただろうか。
 私に初めて彼氏ができた。
 周りからは、そしてあの子からは遅いと言われたけれども、
 私は全然構わないと思った。
 それだけ、あの人が良かったから。
 それだけ、あの人に付いて行きたかったから。
 それだけ、あの人に尽いて生きたかったから。

それから何年後だっただろう。
 あの子が消えた。
 唐突で、真っ黒で、そして何故か馬鹿馬鹿しくて、
 でも、それでも真実で。
 私は泣いた。
 泣いて泣いて泣き崩れて、
 壊れて壊れて壊れつくした。
 それでも、まだその時は良かった。
 私にはまだあの人がいたから。

 これは鮮明に覚えている。
 その出来事から丁度三年後だ。
 あの人もいなくなった。
 私はもちろん冗談だと思った。
 冗談だと思おうとした。
 でも、これも嘘じゃなかった。
 真実だった。
 確かなのに、不鮮明な真実だった。
 だって、いきなりだったから。
 私は泣いた。
 前よりも泣いた。
 前よりも壊れた。
 でも、私は思っているよりもさらに恐ろしい生き物だった。
 何故なら私はその悲しみをも簡単に忘れることができ、
 数年後には次の相手と結ばれるのだから。

 そのまた十年後。
 私の体がおかしいことにやっと気付けた。
 だって私はその時には十分歳をとっていたはずなのに、
 容姿が十六歳の時とまるで変わっていなかったのだから。

 あれから何千年経っただろう。
 あれから何人の人間と別れただろう。
 もうこの世界には私以外誰もいない。
 みんな消えていった。
 あるものは天命に従って、
 あるものは人の手によって、
 あるものは自然の手で、
 みんな灰になった。
 でも、私は生きている。
 でも、別れていった人たちは、みんな消えた。
 悲劇的で、喜劇的で、でも普遍的な結末だった。
 別れていった人たちは、みんな私の事を好きと言った。
 私も、好きだった、はずだった。
 でも、そのせいで悲しみが増したのも真実だ。
 私はどうすればいい?

 それから数日。
 私はあの場所に来た。
 あの人と一緒に来たこの場所。
 私が一番初めに「付いていく」と誓った人。
 あの人は見ているのかな……?
 まあ、いっか。
 もう、いいよね……?
 私だって死にはする筈でしょう……?

ひゅん。
 落ちる。
 私の足が、胴体が、腕が、そして頭が、
 地球の思し召しによって落下する。
 「じゃあね。どうかお元気で。」
 誰に言ったのかは知らない。
 全く、最後の最後まで何がしたいんだか。
 暗い、冷たい闇が迫って来る。
 闇と私が接触する。
でも、何故かまだ寒くはなかった。
むしろ、温かかった。
 『まだ、残っててくれたんだね』
 ああ。
 私の心って、
 まだこんなにも白かったんだ……



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