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3学期 by池辺りあ

2014年05月04日
 
  特別 ~~『無地のキャンバス』プロローグ
池辺りあ 


 美術室の隅のキャンバスは

 いつまで経っても無地のまま


「先生。ここに置いてあるキャンバス、どうしていつまで経っても真っ白なんですか?」

 問いかけたらやっぱり、先生は微妙な顔をする

 私は知ってる

 このキャンバスは、先生の特別なモノ


 先生が閉めようとした窓から

 冷たい冷たい、風が吹く

 揺らされた黒髪は、私の心の揺れと同じ


「ずっとですよね。私が入学してから、ううん。多分、その何年も前から」


キャンバスの上を、私の指が歩く

 ゆっくりと

ゆっくりと

 先生の大事なものに、私の跡を残そうとする


「ずっとですよね。私が入学してから、ううん。多分、その何年も前から」


 先生の特別になりたい

 先生の特別になって、先生に『好きだよ』って言われたい

 先生の特別になって、先生に抱きしめられたい

 先生の特別になって、先生と、キスをしたい


 遊ばれた髪を耳に掛ける

 出来るだけ、女らしく

 出来るだけ、出来るだけ、妖艶に

 先生の心を、こちらに向けたくて

 ……無理だって、分かっていても


 先生に目線を移す

 真っ直ぐと、先生を見つめる


 先生の表情(カオ)が、痛いと言っていた

 やめてくれと、言っていた

 思い出させないでくれと、言っていた

 先生の目が、揺れていた


 でも。

ここで視線を逸らしたらきっと

私はここから進めないままだ


「そのキャンバスは、俺にとっての特別だから、かな」


先生。

特別って、なんですか?


 それは、いつまで先生の特別のままなんですか?

 それを、先生はいつまで胸に抱えるつもりですか?



 ――私は、先生の特別には、なれないんですか?



「…………そうですか。特別、か」


 先生。

 先生の特別になりたいです


 このキャンバスの人よりも

 特別な人に、なりたいです

先生の傷を癒せるような存在になりたいです

 それ以外はもう、何も要らない

 求めないから


 先生。

 先生の特別に、なりたいです



 ……無理だと、分かっていても





  ――後書き

 間に合いませんでした。出そうとしていた『無地のキャンバス』が、全くもって間に合いませんでした。ということで締め切り当日、即興でプロローグなる詩を書きあげた感じです。原稿を落とすのは、ここまで皆勤(たかが一年)の作者のprideが許しませんでした。
 テスト勉強よりも必死になった気がします。そして今、隣の友人も同じくらい必死でPCと戦っております(それを余裕で上から眺める私。私が彼女の立場だったらウザがってると思う)。
 次号くらいに本編を載せられればな……と思ってはいるのですが、もう自信がありません。だって、ものすごく頑張ったはずなのにまだ六ページしか進んでいないのですもの! なので、期待はしないで下さい(誰もしない気もしますが)。もし次号でもまた、詩やら短編小説やらが載っていたら「また間に合わなかったんだな」と憐れみの視線を向けてやって下さい。
 これが終わったら取りあえず、月イチ課題に取り掛からねば。
ん? 別に宣伝じゃありませんよ。良ければそちらも手に取ってみて下さいね~、みたいなことではありませんよ?…………良ければそちらも手に取ってみて下さいね~。
 はぁ、疲れた。どうしようもなく疲労しております。エネルギー使い切った……。今日は早く寝ようかな。とか言いながら結局夜更かししてしまうであろう、池辺りあでした。



真っ白い紙   art
                      オレンジ・ドロップ

 私の眼の前には、真っ白の紙が一枚。B5サイズのペラッペラの紙である。
 私の周りの子はみんなすらすらと鉛筆かシャーペンを動かしている。どんどん真っ白の紙が黒くなっていく。
 その様子を横目で見ている私は、授業が始まって30分、何もしていない。
 今日は私が大っ嫌いな美術がある。今日のお題は、 
『私・僕が考えた新しい果物を紙に描こう!』
というと~ってもめんどいものである。
 周りのみんなは
『オレンジ色のすいかもどき』 
とか、
『ピンク色のリンゴからバナナをくっつけたようなシルエット』
とかいうありきたりな物ばかりを描いている。
 そんな物だめだ!
 もっと、芸術てきな作品を描かなければ……!
 例えば何か、と質問されると……
 ……
 まだ試行錯誤中だとでも答えておこう。
 私は思いつかないから鉛筆を動かしていないわけではない。
 ただ、この溶け込まれるような真っ白の紙を汚したくないのだ!
 頭の中には、いろいろな果物がふわふわと浮かんでいる。
 しかしっ!
 描くわけにはいかない運命なのである!
 他の人から見ると、ただの言い訳にすぎない。
 だがっ!
 これは、れっきとした理由である。
 私はこの50分間、この紙の白さを汚すわけにはいかないのだ。


「くるみ、何で紙に何も描いてないの? 授業終わるじゃん!」
「私は、この紙を黒く汚れさすわけにはいかないのだ」
「はあっ? 何言ってんの! ただ、頭が固くて何も思いつかないだけでしょ!」
「だから、バカは困る!  留(る)美(み)のかわいそ~な紙に、私の紙がならぬよう見張っているんだ!」
「何よそれ! じゃあ、こうしてやる!」
 私は隣に座っているくるみの紙めがけて鉛筆をひょいっと投げた。くるみの紙は、今では黒い一筋の線が描かれていた。
「何を……」
「くるみはこの紙を真っ白のままにしたかったんでしょ? でも、その任務はこの留美様によって失敗したわけ」
「自分に様をつけんな! 気持ち悪い」
「そんなことどうでもいいの! もう任務は失敗したんだから、あきらめて今では黒い線が引かれたこの紙にあなたの感情を思うままに描きなさい!」
「何偉そうに気取ってるの? ああ、だからバカは困る」
「いや、あたしの方が成績上だし」
「成績とかそういう問題じゃない!」
「まあ、何でもいいからとにかく描け~!」


 ああ、何でこんな事になってしまったんだ! 私の前には、今では残念な紙の一員になってしまった紙。横には、私の顔を見てニヤニヤしている留美。
 今だから告白しよう。私の頭の中にはちゃんとしたイメージがある!
 いや、マジで!
 しかし、その果物のシルエットがどうも気持ち悪いのだ。絶対にこんな物を描いたらクラス中の笑われ者になる。
 だが、困った事に、これしか浮かんでこないのだ!
 時計を見ると、あと5分でチャイムがなる。
 ああ、早くなってくれ!
 この時ほど時間が長く感じられた時は後にも先にもないだろう。


 キーンコーンカーンコーン
「あ~あ、チャイムなっちゃった。結局何にも描いてないじゃん!」
「いや、留美に描かれたよ! このバカが!」
「はいはい、すみませんでした~」
 くるみは私を一回睨むと、私が描いた線を消しゴムでゴシゴシ消して前に居る先生に出しにいった。
 その後ろ姿を見ながらクスッと笑う。
 本当のバカはくるみだよ!
 教卓では先生に
「この1時間一体あなたは何をしていたんだ?」
と笑われるくるみの姿があった。
 
 ~初の後書き~
 まずは、お礼です。こんな初心者感バッリバリの文章を読んでいただきありがとうございます! いつもはもうちょっとましな文章を書くんですけど、今回、本気で時間ありませんでした。提出日になって初めて書き始めるとか、ヤバいですよね(笑)一緒に書き始めたっていうのに、先に書き終わった友人をうらやましがりながら、最後はガッツで乗り切りました! 次はもうちょっと余裕を持って書けるようにがんばります! これからもよろしくお願いしま~す! 明日の受験補助員もがんばります!

3学期 by箱船ノア

2014年05月04日

   罪なる琥珀の宝石店
                      箱舟ノア
 新月の夜。何もないはずの空き地に、小さな店が現れた。店の名は『amber』。
 店の中では、男か女かどっちともつかない中性的な子供が一人、丁寧に宝石を拭いていた――。


次の朝。
「なんだろう、この店……」
店の前を行き来する少年。彼は名を健太という。
「よし、入ってみよう! もしかしたら、新しいカードとか売ってるかも……それ渡せば、西田くんも満足してくれるかもしれないし」
西田、というのは健太のクラスメイトで、クラスで一番の権力を持つ、いわゆる『ガキ大将』。健太は彼や彼の取り巻きにいじめられ、肩身の狭い学校生活を送っていた。
「す、すみません……」
ぎぃぎぃと軋む重いドアを押すと、薄暗い店内が目に入った。
美しい宝石が収められたショーケースがいくつも、店の中心を囲むように円形に並んでいる。その真ん中で、琥珀色の髪と目、左目に眼帯をつけた子供が大げさなお辞儀をした。
「……いらっしゃいませ、お客様。僕は店主のアンバー・スィン。叶えたい願いは何だい?」
「ね、願い? ここって、願いが叶うんですか?」
「うん、そうだよ。僕は願いを叶えるのが生業だからね」
(それでどうなるかは君次第、っていうか決まってるんだけどね)
そんなアンバーの心の声はもちろん健太には届かない。
「じゃあ、僕の願いをかなえてください! あ、でも、お金が」
「ううん、お金はいらないよ」
「それなら下さい!」
健太が言うや否や、アンバーの手から石が現れた。深紅の中に一点だけある黒い部分が、目玉のように健太を見つめている。
「この石に願えばなんでも叶うよ。さあ、君の願いを見せて……」
アンバーが微笑んだ途端、健太はぐらり、と床に崩れ落ちた。
「君の絶望を……」


「う、う……」
健太が目を覚ましたのは、いつもの自分の部屋だった。
「え、と……僕、確か宝石屋さんで、願いの叶う石をもらって……夢、だったのかな」
眠い目をこすりながらふと机を見ると、昨日アンバーから渡された深紅の石が、転がっている。黒い部分は相変わらず、目玉のように動きながら健太を見ていた。
「夢じゃない……!? 本当に願いが叶うんだ……」


「何にしようかな、何にしようかな。願いが叶うんだし、しっかり考えないと」
ぶつぶつと言いながら歩く健太だったが、突然足を止める。
「そうだ、透明人間になろう! 透明になって、西田君に仕返ししてやる……」
その時。健太のポケットにあった石が、突然光りだした。黒と赤がぐちゃぐちゃに混ざり合った光が、健太の眼を眩ませる。
「眩しいっ……なんだよ、これ」
健太が目を閉じている間に、石はぐにぐにと形を変え、やがてスプレーのようなものが現れた。
「……このスプレー、何だろう? ……もしかして、かけたら透明になれるんじゃ」
恐る恐るスプレーを近くに生えていた雑草に吹き付けると、一瞬で雑草が消えた。
「すごいすごい……! 本当に透明になれるんだっ! よし、これで……」


「あー、本当に楽しいなぁ」
健太がスプレーを手に入れてから一週間。透明になって仕返しをする日々は、健太にとって最高のものだった。スプレーが水で落ちることも分かり、今ではすっかり使いこなしている。
「あ、西田。よし、もう一回……」
スプレーを全身に吹き付け、西田を追いかける。そして、交差点に差し掛かった時。エンジン音が健太に近づいた。
「え」
信号無視のトラックが、健太めがけて突っ込んでくる。とはいえ、運転手に健太は見えていない。
「うわあっ!」
スピードを緩めず、トラックが交差点を突っ切る。もろに轢かれた健太だが、流れる血もスプレーで消されていた。
(このまま……誰にも気づかれないで死ぬのかな……)
「いやいや、そんなことはない。僕は気づいてるよ」
透明なまま倒れる健太の足元に、アンバーがふっと現れる。
「た……すけ、て」
「やだよ。そろそろ呪宝石の効果が出る頃だし、僕はそろそろ帰るね」
「で、も。雨が降れば、スプレー落ちて」
「残念、しばらく晴れだよ。君はこのまま、僕以外誰にも気づかれることなく、みんなに踏まれながら死んでいくんだ。それに石は、一人に一つしか売れないしねー」
言いながら、アンバーが眼帯を外す。その下にあったのは、びっしりと呪文が書き込まれた、つぶれた目の跡。
「僕の傷跡は君の絶望を求めてる。さあ、お食べ」
目の跡が、健太の体をじっと見る。やがてその体は禍々しい光に包まれ、一つの石になって道に転がった。アンバーがそれを拾い、目の跡に押し当てる。
「……まだ足りないのか。また頑張って絶望を集めるよ」
そう呟き、アンバーはどこかへ消えた。




 新月の夜、突然現れる宝石店。中で宝石を拭く、眼帯の少年。
見かけても店に入ってはならない。己の欲の先にあるものは、絶望しかないのだから。


あとがき
私にしては珍しく、キャラ設定やだいたいの流れを細かく作った話です。でもこのクオリティーって……とか言う突っ込みはやめて、自分がよくわかってるから。