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なにもの? この手紙
はちみつボーイ                                

〔1〕
 僕はめずらしく机にむかって考えごとをしていた。なにについてかというと、今日、学校の帰りに知らないおじさんから渡された手紙についてだ。
「開けたらダメだよ」
と言われて半ば強引にわたされたのだが、あて名の下には「開けたら楽しいことがまってます」と書かれている。
 ふつう、こんな手紙をわたすなら「早く開けてくれ」と言いそうなのにあのおじさんは逆だった。そう考えると、開けないほうがいいと思うし、また開けたいとも思う。宿題などそっちのけでずっと考えているが、まだ決められない。母さんや父さんに相談しようかとも思ったが、あまりいい答えがかえってくるとも思わず、やめにした。
 何度か開けてみようとはしたけれど、その度におじさんの顔が思いうかんで、結局開けられない。マンガやTVなんかの定番では、こんな感じの手紙は魔法使いからの手紙や秘密結社の極秘文書だったりするが、そんなことが現実にあるわけなく、考えている間に空はすっかり暗くなっていた。
 僕は母さんの「信(まこと)、ごはんよ」の声でやっといすから立ち上がり、階段を降りてリビングにむかった。
「ねえ、知らん人から『開けちゃあかん』って言われて手紙もらったらどうする?」
母さんに聞いてみた。
「せやね、とりあえず開けてみるかな。『アカン』て言われても気になるし」
と母さんは答えた。だが、父さんは
「いや、開けないね。なんか知らん人が『開けるな』ってわざわざ言ったんやったら、ちょっとリアルやん」
と言う。これを聞き、ますます僕は困ってしまった。2人とも同じならいいのに。
 夕飯を食べ終え、部屋に戻って、僕はまた考えたが、やはり結論は出ない。
ついに、「とりあえず開けて中を見よう」思い、封をきった。すると中に入っていたのはたった1枚の紙だけだった。読むと
「~山中そろばん塾のご案内」
と書かれていて、ただの宣伝だった。
 中身がわかるとどっと疲れが出てきた。「僕はこんなもんでずっと悩んでたんか」とため息がでた。
きっとあのおじさんは「今ここで開けないで、帰ってゆっくり相談してね」
と言いたかったのだ。
 なんと紛らわしい。でも心のモヤモヤが消え、スッキリできた。やっと気持ちよく眠れそうだ。