TOTAL: 94971 - TODAY: 247 - YESTERDAY: 6
  臆病な死に神
イェーガー
 雪が降り注ぐ乾いた空気に散発的に銃(がっき)の音色が響き渡る。一発だけの銃の音色や連続した銃の音色、規則性がある銃の音色、それぞれが折り重なって一つの音楽を奏でている。でもその音楽の中に一つだけ、歪な銃(がっき)の音色が響く。その音色は他の銃の音色を寄せ付けずその音色を上書きしていく。それにより一つの音楽を奏でていた銃は少しずつ上書きされ、消えていく。他の銃はその歪な音色を止めようとするが、敵わず上書きされていく。一つ、また一つ上書きされ、最後に残っていたのは、音楽を奏でた奏者と、歪な音色を持つ銃だけだった……。
「……終わったの?」
 紅い軽機関銃を持った少女が言った。
『さあ?どうだろうね』
 その少女以外の誰かが言う。でもそこには少女以外に人はいない。通信機も持ってない。
「あなた人の気配とかわかるでしょ。それで調べてよ」
 その少女は紅い銃に向かって語りかけていた。
『お? 言ってもいいのか?』
 そしてその紅い銃はその少女の言葉に答えた。
「……やっぱりいいよ。痛い目に遭いそうだし」
 少女は紅い銃の言葉に弱気な言葉で答えた。
『その方がいいだろうよ。てかお前もうちょっとどうにかならないのか? だから臆病者の死に神と呼ばれてるんだよ』
 紅い銃はその少女を臆病者の死に神と言った。
「はぁ……うん。もういないみたい」
 臆病者の死に神と言われた少女は少し臆病な様子であたりを見回しながら言った。
『もう終わりか。呆気なかったな』
 紅い銃がつまらなそうに言う。
「もうこんなのこりごりだよ……」
 少女が疲れた声で言う。
『俺を拾ったお前の運命だ』
 紅い銃がからかうように言う。
「拾わなければよかった……」
 少女は嘆くように言う。
『まあまあ、そんなこと言うなよ。そんなことより今のうちに移動しようぜ』
紅い銃は少し真面目な声で語る。
「……そうだね。あいつらもいつ来るかわからないし」
 少女がそれに賛同する。
『ああ』
「でもどこに行こうかな……」
 少女は頭をかしげながら考える。
『南に行くのはどうだ?』
 紅い銃が思いついたように言う。
「うーん……そうしようか」
 少女は再び賛同する。
『そうしようぜ』
「ならもう移動しようか」
 少女は服に付いたほこりを落としながら言う。
『だな』
 今度は紅い銃が賛同する。
「それにしてもあいつらしつこいな……」
少女が疲れた声で言う。
『それだけお前のことを恐れてるということだろ』
「私普通の高校生だったのに……」
『今じゃ臆病者の死に神だもんな』
「言わないでよ……」
『ハッハッハッ』
紅い銃が乾いた声で笑う。
「もう……」
『まあそんなことより弾とか色々と大丈夫なのか?』
「うん。弾や他のものはまだ余裕があるよ」
『あの日とかも大丈夫か?』
紅い銃がからかうように言う。
「……これってどこもいだら喋らなくなるのかな……」
少女がそう言い紅い銃に力をかける。
『え、あ、ちょっ、やめて下さい。死んでしまいます』
「じゃあもう言わない?」
『決して言いません。ちょ、折れる折れる』
「……はぁ」
少女が力をかけるのをやめる。
『そんなにため息ばっかついてると幸せが逃げるぞ?』
「誰のせいだと……」
『誰のせいなんだろうな』
「もう……」
『そんなことよりもう行こうぜ』
「だね……行く先は……適当でいいか」
『だな。今までどおりに気楽に行こうぜ』
「私は気楽じゃないんだけど……」
『細かいことはいいんだよ』
「はあ……」
『さ、行こうぜ』
「わかったよ……」
少女と紅い銃はそこを離れる。屍を踏み越えて、赤い水溜りを避け、鎮魂歌(レクイエム)を奏でた場所から背中を向け、臆病者の死に神と歪な音色を持つ銃(がっき)が、姿を消す。








後書き
はい、一体何が書きたかったのでしょうか(二回目)。お題を決めてもらって締め切り三日前から始めたらこれ続きあるだろ、的な作品になってしまいました。どうしてこうなった。
 たぶん続きはだすと思います。これだけだと何が何なのか分からないと思うので……ではまた次の作品で。



3学期 by魅烏

2014年05月04日
  とある月夜の出来事
魅烏

去年の三月、私は令(れい)の隣で眠っていた。
いつもいつも令の事を想って笑っていた。
今年の三月はそんな令が隣にいない。

 ***

私と月宮(つきみや)令の関係は、月宮財閥が経営する図書館の雇い主と一従業員というだけではなかっただろう。いや、正直に言おう、私たちはたぶん恋人と呼んでいい関係であった。「あった」と過去形なのは、私たちは離れる決心をしからだ。
別に喧嘩をしたわけではない。お互いに憎み合うほどの出来事があったわけではない。ただいつかはこうなるべきだった。そしてその日が訪れた。それだけのことだった。私はその言葉をもうずっと前から覚悟をしていたし、その日が近いことだってわかっていた。
それなのにいざその時がくると、ふと鼻を掠めた令の髪に、いつも当たり前のように近くに感じていた令のかおりに、あふれ出る涙を止めることができなくなった。
最後の最後であっても令は、「冬香の事を嫌いになんかなれない」という言葉をあまりにも辛そうにそういうものだから私の涙は止まらなくなった。ああ、この人は本当に酷い人だと思った。私は溢れんばかりの令への想いも必死で押し留めているのに。そんな私の決意も努力も全て無にしてしまうような甘い言葉を囁く。そんな事を言うくらいなら、いっそ「嫌いになったから別れて欲しい」くらいの事を言ってくれたほうが優しさだと思った。
もうこれ以上私に近づかないで欲しい。
令を感じさせないで欲しい。
そう思ったら、何かのスイッチが入ってしまったかのように、私の頭の中は令との楽しかった思い出ばかりがよみがえってきた。

 ***

昔はずっとこのまま一生一緒にいられるものだと思い込んでいた。ただ私は令が好きだと、令も私を好きでいてくれるという想いだけで何でもできる気がしていた。
 しかし大学を卒業し、令に誘われるがままに一緒に働くようになって突きつけられた現実。立ちはだかった令と私の間に置かれている身分という壁。令は日本有数の財閥の一人娘で、いずれはその全てを継いでいかなければいけない立場だった。何についても有能な令の事だから、手掛けている事業のことはそれほど心配もしていなかったし、きっとうまいこと月宮財閥を発展させていけるのだろうとは思った。
そうなると次に問題として浮上してくるのは世間体。令には適齢になれば結婚して後継者を残すというごく当たり前の事が、ある意味義務として付きまとうことになる。
そして私とではそれはできない。
令を微力ながら支えることは頑張ればできるかもしれない。でも、私は女で、どんなに頑張ったってそれは変えられず、令に子どもを授けてあげることはできないし、令の恋人でそして将来を約束した仲であると胸を張って表舞台に立つことなどできるわけがなかった。
その事は令の父親にも念を押された。
数日前、図書館を訪れた令の父親は私に数枚の見合い写真を持ってきて
「この中で令にはどの人が合うだろうか。私なんかよりもずっと長いこと傍にいる君の方が、令の好みや性格を知っていると思ってね」
と、言った。にこにこととても紳士的なその顔の裏に隠れた悪意に私はうまく返答することができていただろうか。
令の父親には令から私のことを恋人だと、一生添い遂げるつもりだと紹介してもらった。その事に令の父親は、「お前達の関係に口出しするつもりはない。ただ、この家を継ぎ、多くの従業員の生活を支えるという義務があることだけは忘れるな」と答えた。
完全に認めてもらっているとまではさすがに言わなくてもここまであからさまに拒否されるとは思っていなかった。現実は厳しいのだと再認識した。
「そんなこと気にしない。言いたい奴には言わせていればいい。後継者だって今時世襲なんて古いんだよ」と令は何度も私に言い聞かせるように言ってくれた。だけどその言葉を鵜呑みして、ただ自分の幸福のために令が世間から後ろ指を指されるのを黙って見ていることなど私には到底できそうになかった。
いつか離れる日の為に令と距離を少し置くようにした。令がそれを望まないことは分かっていた。自惚れかもしれないけれど、令はきっと世間体や他人(ひと)からの視線や評価よりも私を選んでくれるだろう。だけど、これは令だけの問題じゃない気がした。だから少しでもお互いの傷口が浅くすむように、私は自分の心を殺した。
悔しかった。誰よりも令のことが好きで、愛していて、ずっと一番近くで令を見てきて、この想いは誰にも負けない。それなのにいとも簡単にその座を家柄がよく、男性であるということだけで、名も知らぬ誰かに奪われてしまう。なんていう理不尽。どうしてそれが私ではないのだろうか。別に男に生まれたかったと言うことではない。私は令を支え、いつだって令の一番の味方でありたいと思った。嬉しいことも悲しいことも、令の一番近くで一緒に感じていたいと思っていた。いや、今だってそう思っている。それなのに……。悔しくて悔しくて私は唇をかみ締めた。
私は相も変わらず令が好きだ。令が好きだからこそ、私は令から離れたいと願っている。愛しているからこそ、私は令の枷にはなりたくない。

 ***

「どうした?」
私はこみ上げてきた涙ぐっと飲み込んだ。令に最後の我儘を聞いてもらってからはもう泣かないと決めた。決めたはずなのに、静かに涙を流す令を見ると、思いがけず自身の瞳からも涙が零れてしまった。本当に詰めが甘い人だと思った。別れを切り出しておきながら泣くなんて反則である。もう無理だ。これ以上自分の心を殺すことも、令から離れることもできない。一度零れ落ちた涙は、堰を切ったように溢れ出し、止め処なく流れ出した。そしてその涙と共に、私の口からも止められなくなった想いが言葉として溢れ出た。
「嫌なの……。令が誰かを……私以外の誰かを傍に置くのは嫌だ!」
令の枷にだけはなりたくなくて、令の華やかで順風満帆な未来を奪うことだけはしたくなくて、愛する人の幸せが自分の幸せだなんて一生懸命に言い聞かせて我慢してきたのに……。感情的に言葉をぶつける私をそうやってどこか冷静に眺めている私がいた。しかし、一度口から零れてしまった言葉をとめることなどできなくて、私は令に叩きつけるように全てを吐き出した。
「好きなの。令が好きなんだよ! もし令が私以外の誰かのものになるのなら私は令を殺してしまいたいぐらい好きなんだよ!」
月明かりが照らし出す令の顔はまるで陶器でできた人形のように思えた。このままその白く細い首を絞めて、令を殺してしまおうか。そして私も一緒に死んでしまおう。そんな馬鹿げたことを考えている自分に呆れる。
「令とずっと一緒にいたい……。でも私が一緒にいたら、令に後ろ指を差される生活をさせてしまうかもしれない……。仕事にも影響が出るかもしれない……。だけど! それでも私は令が欲しい! ごめんなさい、ごめんな……」
「僕はお前だけを愛している」
 令は令らしくもない切羽詰まった声で私の言葉おさえぎると、私の頭を抱え込むように抱く。
「冬香。僕には冬香が必要なんだ。冬香がいないと息をするのも苦しい。冬香は私を本気で殺す気なの?それならそれでも構わない。だけど、それなら冬香も一緒に死んで」
令は私の頬を手で挟んで顔をあげさせると、まっすぐに私を見据え、全てを見透かすかのような瞳を私に向けた。
私はそんな令の顔を引き寄せて唇を重ねた。初めて自分からしたキス。私は初めて自分から令を求めた。
「うん。一緒に死のう。でも、まだ死ぬには早すぎるよ。私、令とこれからしたいことたくさん、たくさんあるんだからね」
 私は何度も何度もキスをした。
今求められているのは覚悟だ。
それは、令から離れる覚悟ではない。
令と共に歩みつづける覚悟。
私は令が進むべきだったごく当たり前の生活を奪ってしまったのだから、その分令を支え、慈しみ、深い愛情で令に幸福を与え続けなければならないと思った。それはもちろん強制されたことではなくて、自ら望んだことだ。

***

「令、大好き……。これからずっとずっと、ずーっと一緒にいれるなんて私は幸せだなぁ」
「ん? どうした? 眠い?」
私の身体をソファに押し倒しながら令は私の唇を塞ぐ。そのまま甘いキスを繰り返す。嬉しいのに、眠くてうまくこたええられない。意識が薄れていく。
「今夜は月がきれいだね」と令が言ってくれた気がしたけど、現実だったのか、夢だったのか。今はもう定かじゃない。

   白身魚の死
風船犬 キミドリ
 彼は、そこそこ都会といった雰囲気の街の道を歩いていた。カジュアルでありながらそれなりに洒落ているというような格好で、特に何に目を向けるわけでもなく、ただただ歩いていた。彼はどこへ向かっているのだろうか。実は彼もわかっていないのではないだろうか。いや、そうではなかった。彼は左腕にはめた腕時計を確認すると、少し慌てたような顔をし、きょろきょろとあたりを見わたす。が、目的のものは見つからなかったようでポケットから携帯端末を取り出すと、不慣れな手つきで何かを入力し、しばらく画面を見つめた。そして彼は先ほどより少し早足で歩き始める。携帯端末を握り締め、ちらちらとそちらに目を向けながら不安げに道を進む。
 そこへ、一人の女性が姿を現す。彼と同じくらいの年齢と思われる彼女は、彼よりも着飾り、若造りしているようにも見えるがそれなりに整った顔立ちで、スタイルも悪くない。彼は彼女を見るとほっとしたような顔をし、彼女へ近づく。彼は何事かを彼女に伝え、彼女はそれに答えた。
 二人はしばらく一緒に歩き、やがて大きなビルの前にたどり着く。ここが彼らの目的地なのだろうか。デートにしてはいささか不自然な場所だ。しかし二人はビルの裏手に回るとそこでひっそりと営業しているカフェへと入っていった。
 カフェのなかにはこの店の店主と思われる老齢な男性が不機嫌そうな顔をしてカウンター内にいるだけで、他の客の気配はなかった。二人が席に着くと店主はすぐに二人のもとへとやってきて水を並べた。あまりに乱暴な置き方だったため水が若干こぼれたが、三人のうち誰も気にした様子はなかった。
 水を一口飲んだ彼はメニューも見ずにブラックコーヒーを二人分注文する。彼女は全く口を開かず、ただぼんやりとこぼれた水が傾いたテーブルを流れていく様を眺め続けていた。
 不機嫌な顔をした店主がカウンターへせかせかと戻っていったあと、彼女はようやく口を開いた。
「そろそろ本題に入ろうじゃないの。私は何をして、あなたは何をするのか。それを教えてもらわないとこれは渡せないわ」
彼女の言葉を聞いて、彼は少々焦燥感を顔に出しながらも、落ち着き払った調子で笑いながら答える。
「ああ、それなら心配ないよ。僕らは確実に目的を達成できる。君がそれを渡してくれるならね。痛みもないし苦しみもない。あるのはまどろみと幸福感と現実からの解放だ。これは最大の放蕩で浪費だといえるね。なにせ……」
「お待たせしました、コーヒーです」
ちょうど店主がコーヒーを運んできたので彼は言葉を切った。そして一息つこうとコーヒーを飲む。彼女も彼に倣ってカップに口を付け、紅いルージュの痕を残した。しかし彼も彼女もすぐにコーヒーを飲むのをやめた。何故ならそのコーヒーはアメリカンといったわけでもないのにカップの底が透けて汚れが見えるくらいに薄く、まるで泥水か何かのようにまずかったのだ。彼のしかめっ面がそう言っていた。
「話の続きは?」
同じくしかめっ面の彼女が彼に続きを促す。
「ああ、そうだったね。なにせこの行為は……」
彼は、ここでこらえきれないというように、歯をむき出しにしてにたりと笑うとこう告げる。
「この行為は人ひとりの人生そのものをまるごと一気に使い切ることになるんだからね」
「それは爽快ね、きっと。私たちはその一瞬の快楽を必ず得られるのね」
「ああ、そのとおり。まあそれは君が本当に、本当の本当に…………自殺するほどこの世界に嫌気がさしているならね」
「心配ないわ、すぐにでも死んでしまってこの汚れた世界から解放されたいの」
彼がニヤつきながら放った言葉に同じく口角を釣り上げて返事をする彼女。二人はまずいコーヒーを前に凄絶な笑みをその顔にたたえていた。
 二人は店を出ると倉庫街の方へと足を運ぶ。
「自殺に倉庫街とは……最高のロケーションね」
「じゃあドラマにでもでてきそうな崖が良かったのかい?」
「まさか、そんな華々しく散っていこうなどと思わないわ。この世界に未練なんてないわけだし」
それから二人は黙ったまま歩き続けた。
 倉庫街に着くと彼は彼女にポケットの中身を要求した。
「これが一人分。結構高かったけど、どうせ死ぬんだし貯金は使い切ってきたわ」
「そうかい、ならいいよ。僕たちはこの世になんの未練も残してはいけないのだから」
二人は顔を見合わせ穏やかに微笑み合う。
「最後に聞くよ。君は本当に死んでもいいのかい?」
「何度言わせるの? 私は現実から解放されたいの。とっとと死んでしまいたいのよ」
「これは哲学で一番大切な問いだ。自殺するべきか否か、今後の人生には本当に苦しんで生きる価値がないと言えるのか。さあちゃんと二人で考えようじゃないか」
「本当に何度言わせるの? あなたがなんと言おうが私は死ぬの。あなたが怖がって意味不明な質問をなげることによって時間稼ぎをしているというのなら、私はとっととこれを飲んで死ぬわよ」
「まあ、そんなに急くことはないだろう? 時間ならいくらでもあるんだ」
「いいえ、時間などない。私はもう現実世界でこうやって生命活動を行うということに疲れたのよ! 今後の人生? そんなものいらない! あなたの言うように一瞬の快楽に身を投げたいの!」
彼女の激昂に、彼は長い沈黙を挟んでから答えた。
「オーケー、了解だ。君はもうこの世に生きる価値がないと思うんだね。それならばそうだね、君はこの世で生きている価値がない。とっとと死ぬのがベストだろう。僕と一緒に死んでくれるかい?」
「ええ、もちろん。あの世で会いましょうね。もしあの世があってこの世よりましで私の存在する価値がそこにあればだけれど」
彼女は冗談めかした調子で笑うとなんのためらいも見せずに握り締めたそれを飲み込み、それと同時に彼も飲み込む。二人の内蔵がそれを処理しようと働き始める。次の瞬間ごぼりと口から血を吐くと彼女は笑みを浮かべたまま、彼は何かを諦めたかのような表情のままこと切れた。

 「ふう、やれやれ。彼女もまたダメだったのか」
二体の死体に近づく男。格好こそ変わっているものの、その男はまさに彼だった。
「まったく世も末だな。いや、ここが世の末というべきか」
彼は死体を袋に詰めて鍵の開けてある倉庫の中へと運び入れた。
 何十個と並ぶ倉庫の中身は全て彼と、彼と一緒に死ぬことを選んだ憐れむべき人々の亡骸だった。地獄だろうか、いや違う。ここはむしろ天国なのだ。死を望みつつも、一人では死ねない人々が安心して死んでいった幸せに満ちた場所。それがここだった。




あとがき
 あけましておめでとうございます、キミドリです。今回、本気で原稿落としそうになりました。今まで皆勤なのにここで落とすわけにはいかない! 部活くらい皆勤で! と頑張ろうとした結果、申し訳ないことにストック放出、という形になりました。言わなきゃばれなかったのに。 
 で、ちょっと不安なのがこの話既に部誌に掲載したことあるような気がする点です。大丈夫かな……(言わなきゃばれなかったのに)

もし、これが掲載済みだったとしたら申し訳ないので、今回のテーマ「白色」についての思考をダダ漏れにしたいと思います。


 私は普段、病弱虚弱と罵られることがとても多いのだが、病院には最近あまりお世話になっていない。そんななか、これは珍しくちゃんと病院へ行った時のことだった。
 最近の病院は白一色の無菌室のような、というイメージではなく、暖色系の色合いや木で出来ているような雰囲気を与えるものを多く置いている。この理由については心理学的な話になるので今回は割愛する。
 しかし、私の行った病院の診察室はやたらと白かった。先生を待つ間、私は一人診察台に寝転がっていたのだが、だんだんと妙な気分になってきた。
 この部屋の扉はすべて白色で塗りつぶされ、私は白色の中に閉じ込められてしまうのではないか。徐々に白色が私を侵していくのではないか。
 白色というと、無個性的で、紙の印象だろうか、弱いイメージを何となく思う。しかし、白色は人の心をその上に描きだし、それに直面させて不安を呼ぶ。圧倒的に純粋な「白色」は、複雑な人の心とは馴染まずに、人の心を内側に取り込んで染め上げてしまう。そんな気がした。
 日本人は白色に神聖さを見る。部屋を囲う障子の「紙」は「神」に通じるし、米だって栄養価ではなく「白米」であることにこだわる人が大多数だ。真っ白であることに神聖さを見るのは、やはり恐れからなのかもしれない。

真っ白な原稿、真っ白なワードの画面、真っ白の頭の中。なるほど締め切り前に覚える、異様な、体の内側に走る寒気の原因は白色だったのか。                         
おわり 

3学期 by月夜猫

2014年05月04日

 小さな世界
月夜猫
 空には三つのお月さま。
 淡いピンクの満月に、青白く濃い半月と
 最後はいつも泣いている 姿を見せない黒い月
 太陽はここにありません
 でも、月が三つあるので 太陽は必要ありません
 深い深い 綺麗な夜を 月はほのかに照らします
 暗い暗い 惨めな闇を 月はやっぱり照らします
 太陽は私には眩しすぎて
 全て見透かす柔らな光
 全て照らしてしまう強い「陽」
 それから私は逃げました。
 一つしかないものなんて、嫌で
 私は一つしかないものを消しました。
 それは、私の臆病だったのかもしれません
 失うことが、怖くって
 つくらなければいいのだと。
 何かに甘えたくてたまらない
 弱い私はなぜここに?
 手に手を取り合う仲は
 とても脆弱で近づけない。
 壊れる事が怖いから
 変わる事が怖いから
 私は今日もゆらゆらり
 言い訳、嘘がぺらぺらり
 貴方に嫌われたくなくて
 貴方が離れてほしくなくて
 相手を気遣う嘘なんて 私の口から出やしません。
 出るのは、保身の嘘ばかり
 ねえ、月が綺麗ですね。
 ねえ、そうだと言ってくれませんか。
 ねえ、どうして誰もいないんですか。
 私が入ることを許さないから。
 こんな私の中に入ろうと
 ノックの音が聞こえました。
 私はそれを無視しました。
 また、ノックの音が聞こえました。
 ある時、私は外に出て ずっと立ち話をしたのです。
 話していると、楽しくて。
 だけれど、それでも、私はやはり
 また会う約束をして、その人を中に入れませんでした。
 いろんな人が通り過ぎます。
 ほとんどの人は気づきません。
 その中に太陽がないことも
 月が三つあることも
 ずっと夜であることも。
 ああ、カササギ、私のカササギ
 小舟に乗って 羽を被って
 どうか、唄を私に。
 銀の海に頼りなく 揺れる鳥籠、ぎこぎこと
 歪な旋律を、どうか私に。
 それを聞いて 静かに沈み
 私は海に溶けていく。
 遠くなる歪な旋律と
 それは少しの安心感。
 悲しいことがありまして
 憎いこともできまして
 忘れたいこともありまして。
 手放すことができたなら
 それはどんなにか素敵でしょうと
 私は今日も泣くだけです。

 ああ、今日も月が綺麗です。
 私の中で、それに同調してくれる
 そんな人など要りません。
 ただ 願ってもいいのなら
 月が一つの外の世界で
 チョコレートでも一緒に食べてくれる
 そんな人が いいのです。





あとがきー
 はいぶっ放しました。とりあえず何がやりたかったんでしょうね。自分の中の世界でしょうか。己の意思でしょうか。決まった事はわかりませんね。なんだかいろいろトチ狂っておりますが気にしないでください。
 文芸部誌「海琴」を手に取っていただき、そしてこんな月夜猫の作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。
 二〇一四年の幕が開きましたが、今年も文芸部誌部員ともどもどうかよろしくお願いいたします。

3学期 by勿忘草

2014年05月04日

  その先
勿忘草
“完成”を求め

“完成”のない道を

はしる

“結末”に惑わされ

“結末”のない道を

はしる

“自分”という価値

“自分”の答えがない道を

はしる

“未知”を嫌い
 “未知”のない道を
 
 はしる
 
 “完成”のないガラクタ
 
 “結末”を恐れる弱虫
 
 “自分”がない人形
 
 “未知”を嫌う過去
 
 その先
 
 そのはしった先には
 
 何が見える?
 
 何が聞こえる?
 
 わからない
 ただ今日も
 
 淡々と平凡に
 
 生きるのみ
 
 ガラクタは
 
 弱虫は
 
 人形は
 
 過去は
 
 どうなるのか?
 
 その先に
 
 何が見える?
 
 その夜は
 何をもたらす?
 
 わからない
 
 わからないから
 
 その先へ
 
 ただひたすらに

 はしるのみ


戯言

はい、皆様こんにちは。勿忘草でございます。さてさて、今回は詩のようなものを書いてみました。私の中でのテーマは“人”です。ちなみに、はしる=走るではないのでご注意を……。……はい……すみませんでした。
このような拙いモノを読んでいただきありがとうございました。
                  心からの感謝を 勿忘草

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