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3学期 by青い怪物


夜をこえる

夕日が世界を赤く染める頃
赤い赤い空の下で君は僕に言う。
「今日で別れよう」
当たり前だった日常が君のたった一言で崩れ去る。
僕は何も言えない。
勝手に大人びて、誰かに弱い所を隠すようになって。
歳を重ねて、本音を言えなくなって。
僕には君を引き留める資格が無いような気がして。
嘘を重ねて、さらけ出せなくなって…
いつから君は我慢していたのだろうか。
いつから君は僕を嫌いになっていたのだろうか。

君の存在が当たり前過ぎて見えていなかったのだろうか。
こんな日が来るのなら君をもっと大切にすればよかった。

終わりが近づけば、始まりが懐かしくなる。
こんなときに限って付き合った日の事を思い出す。
特別だった事が当たり前になったあの日。
当たり前だったことが特別に変わる今日。

今日の町はいつもと違う空気に包まれていた。
繁華街のネオンの光も重く暗い。
月が消えていく。
君が電車に乗り込む。
僕はまだ君に何も言えない。
君の電車が明日へ動き出す。
君の姿が見えなくなっていく。
君との最後の夜が過ぎていく。
「ああ、行かないで、夜をこえないで」
僕はそう言って追いかけていく。
遠くに行った君にはもう届かない。
時計の針は止まらない。
君が去ってく。僕が何を言おうとしても。
君が消えてく。僕が心で泣いていようとなかろうと。
君は幸せな夢を見て、僕との日々を忘れ去っていくのだろう。
僕は幸せな夢を見ることができるのだろうか?

 「好きと嫌いは紙一重だよ」
昔、君が僕に言った言葉の意味が
今、少しだけわかったような気がした。
月が消えた。街が朝の空気に包まれる。
別れを受け入れても思い出(きおく)は消えてくれない。
半年経っても、一年経っても完全に消え去ってはくれない。
『別れ』あの子と一緒に思い出も連れ去ってくれ。
ほら、二年経ってもまた君のことを思いだす。

会いたくて、会えなくて。
ほらまた心が君を求める。

ふと思う時がある。
君を嫌いになれればどれだけ楽だったのだろうか。
僕はあの時どうすれば良かったのだろうか。
君は僕にたくさんの物を残してくれた、
僕は君に何か残せたのだろうか。

僕の中の誰かが言った「君が幸せならばそれで良い」
そう思いながらも僕は君を求めてしまうだろう。
一人悲しみと同じリズムで歩く思い出の通学路。
黒い傘に雨があたる音だけが聞こえる。
分厚い黒い雲が空を隠す。

いつ終わるかな。明日が見えない日々は。
いつ終わるかな。明日の欠片をを探し続ける日々は。
どうだろう、僕は幸せな夢を見ることができる日が来るのだろうか。
僕の心は今もまだあのホームで未来を探していた。


一〇九六回目の朝日が昇る。
僕の時が動き始める。
ホームからは見ることのできない未来へ歩を進める。
僕だけが見られる未来へ。
僕の幸せな夢に向かって。



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